片恋の終わり
突然ですが、寮の倉庫に閉じ込められました。
MANKAIカンパニーの寮は異次元につながってるっていう噂もあるくらいだから、鳥が喋ったり、時間がループしたり、他人の心が分かったり……とにかくいつなにが起きてもおかしくない。
劇団に入ってもうすぐ三年。
そういう不思議展開にも慣れました。
適応力はあるほうなんで。
そんな俺もこの状況にはびっくりです。だって、いま俺の隣に誰がいると思う?
「おい、なに一人でぶつぶつ言ってるんだ?」
「ちょっと状況を整理しようと思って」
「整理もなにも一目瞭然だろう。倉庫に閉じ込められたんだから」
「うん、それはそうなんだけど、なんで閉じ込められたのかなって」
「……鍵が壊れてるんじゃないか?」
そういう意味じゃないんだけどな。
「丞が倉庫に来た理由は?」
「監督に小道具を探してほしいって言われてな。茅ヶ崎は?」
「俺も似たようなもんかな。監督に昔の台本を見つけてほしいって頼まれた」
「……なんか変だな」
「でしょ? しかも俺たちが倉庫に入ったとたんいきなり扉が閉まったし」
「風が強かったんだろ」
丞ってどこまでもリアリストだよね。うん、そういうところ、嫌いじゃない。
っていうか、好きなんだけど。
出会った当初は、こんなマジレス連発無愛想男と仲良くなれるわけがないと思ってたのに、気がついたら恋に落ちていた。第一印象はあてにならない。
丞のどこが好きかって?
まあ、たくさんあるけど……。
強いて言えば誰に対しても平等なところ。
誰も特別扱いしない。監督に対しても女だからって変に優しくしたりしないし。こいつ他人に対して興味がないのかなって思ったときもあったけど、変な先入観で相手を決めつけたりしないから一緒にいてすごい楽。
でも、そんな丞だけど、意外に押しに弱くて、俺が頼んだら文句を言いつつ駅まで車で迎えに来てくれる。
負けず嫌いで、不機嫌になるとすぐ顔に出るし、子どもっぽいところも好き。
あと、ふとしたときに見せる笑顔がかわいいよね。一八〇センチオーバーの男に向かってかわいいとか、三年前の自分が聞いたらコーラを口から吹き出すと思う。
俺の一方的な片想いだから、できればこの気持ちはバレたくない。だから倉庫で二人きりとか超マズい。なんか雰囲気に負けて「俺、実は……」とか告白しちゃいそう。
え、勢いで告白しちゃえって?
ぜったい無理。
「さっきから誰と話してるんだ?」
「天の声」
あ、こいつ大丈夫かって顔された。
「冗談だよ」
「こんなときによく冗談が言えるな」
冗談でも言わないと変なこと言っちゃいそうだし。
ちらりと丞の顔をうかがうと、眉間の皺が形状記憶するレベルで深く刻まれている。
これは早々にここから出ないと丞の眉間が大変なことになってしまう。
もう一度状況を整理しよう。
鍵をかけた覚えのない倉庫の扉が開かない。丞が全体重をかけて扉を押しても開かなかったのだ。非力な至がどうこうできるはずもない。ちなみにスマホの画面は真っ暗で助けを呼ぶルートは閉ざされている。どうにかして自力で脱出するしかない。
あれ、これってつまり……。
「出られない部屋じゃん!」
そうだよ、これはそういう部屋だよ。
〇〇しないと出られない部屋。
男二人が強制的に密室に閉じ込められたらその部屋の可能性を疑うのがセオリーじゃん。はい、そこ、メタっぽい発言って言わないで。
なんでもっとはやく気がつかなかったんだろう。
「丞、壁に貼ってある紙を探して」
丞がいよいよこいつは頭がおかしくなったのかと憐れみの目で見てくる。
「紙に指示が書いてあるはず」
二人で薄暗い室内を見渡す。
衣装ケースや舞台の小道具が入った段ボールが詰まれているだけで、それらしき張り紙は見当たらない。
「ないな……」
「ええ、そんなはずないのに。こういう部屋から出るには紙に書いてある指示に従うしかないんだよ」
「例えばどんな指示だ?」
「例えば? うーん、定番はセッ……」
「せ?」
「……摂津万里を召還するとか」
「スマホが使えないから無理だな」
丞が残念そうに言った。
さすがに告白をすっ飛ばしてセックスは駄目でしょ。物事には順序ってもんがある。あと、こんな場所で処女を失うのはちょっと……なんというか、ロマンがないよね。
「他にどんな指示があるんだ?」
「簡単なやつだと手をつなぐとか」
「それならできるな。ほら」
丞が躊躇なく俺の手をつかんだ。ふいをつかれて思わず逃げそうになる。それを咎めるように丞の指が俺の手をがっちり握り込んだ。
これっていわゆる恋人つなぎじゃない?
「他には?」
「え、他?」
「扉が開くまでいろいろ試すしかないだろ」
「あ、そうか。そうだよね。えっと、じゃあ……キスとか?」
すみません、雰囲気に負けました。
どうせ丞のことだから「冗談はやめろ」って怒りながら断るはず。断られても別に傷つかない。こんな場所で、とか思ったけど、こんな状況でこんな場所だから言えることってあるじゃん。変な雰囲気になってもあとで笑ってごまかせば大丈夫でしょ。あれ、いまなんか口に触れたような……。
「これでも開かないか」
「……え、なんでキスしたの!?」
「お前がしろって言ったんだろ」
いやいやいや、冗談だって。半分本気だったけど、まさか本当にキスするとか思わないじゃん。しかも口に。
「はじめてだったのに」
「別にいいだろ。俺のこと好きなんだから」
バレてる。
必死で隠してたのに、なぜ。
「……なんで分かったの」
「見てれば分かる」
「……ずるい」
「お前がいつまでもくずくずして告白してこないのが悪い」
そんな簡単に告白できるわけない。
丞こそなんでそんなにさらっと大事なことを言えるわけ?
と言い返そうとした瞬間、仄暗い倉庫に細い光が差し込んだ。
「えっ、開いた」
「みたいだな」
あまりにも唐突に開いたので喜びより先に驚きが勝ってしまう。いったいなにがきっかけで開いたのだろう。
「ほら、行くぞ」
丞に促されて外に出ると呆れるくらい青い空が出迎えてくれた。もしかして倉庫に入ったときからまったく時間が進んでないんじゃないだろうか。
「なんか現実じゃないみたい」
「現実だろ。こうやって手も繋いでるし」
ということは俺の気持ちがバレたのも現実だ。
「はあ……最悪。告白するつもりなんてなかったのに」
「だから倉庫に閉じ込められたんじゃないか?」
丞が意味深な顔で笑う。
こんな状況でも余裕な表情。こっちはさっきから心臓が破裂しそうなほどドキドキしてるのに。
むかつくけど、やっぱりかっこいいなと思ってしまう。
「俺の気持ち、もう分かったでしょ。丞はどうなの?」
「そんなの決まってるだろ」
丞の口から聞きたいんだけど。
そう言おうとした俺の唇は再びふさがれてしまった。