丞至同棲本
2018年に発行したコピ本の再録です。同棲している丞至のお話です。
五年目の憂鬱
丞が三十路になった日に洗濯機が壊れた。享年五歳。ガコガコと変な音が鳴ってから数日で動かなくなってしまった。
同棲を始めた時にヨンキュッパで買ったセール品の割によく頑張ってくれたと思う。脱水のパワーが強すぎてシャツとタオルとトランクスが絡むのだけが難点だったけど。
丞が言うには修理するより新しい洗濯機を買った方が安いらしい。俺はPC周辺の機器には強いけど家電系はお手上げなんだよね。叩いて直せばいいじゃん?って思っちゃう。
駅前の電気屋に行ったらちょうど在庫切れで、新品の洗濯機が届くのに約二週間かかると言われた。ワイシャツは別として、下着とか稽古着までクリーニング屋に出したくない。
「コインランドリーに行くしかないな」
丞の案に俺も異議なし。ってことで週末の朝に一週間分の洗濯物を持っていくことになった。
「うわ、めっちゃきれい」
俺が驚くのも無理ないと思う。
コインランドリーに入った途端お洒落なBGMが聞こえてくるし、観葉植物が置いてある店内(と言っていいのか?)はまるでカフェのような作りになっている。
「清潔感がありすぎてちょっと居心地が悪いな」
丞の言う通りで、明るい蛍光灯とぴかぴかに光る床がなんとも人工的というか、温かみがないというか。コインランドリーって商店街の端っこにひっそりとあるイメージだったからびっくりした。
壁に備え付けられた大型のドラム式洗濯機に二人分の衣類をぶちこむと、乾燥までのコースを選んであとは待つだけ。計器の表示は一時間。微妙な待ち時間だ。
「どうする? 家戻る?」
「寒い中歩くよりここで待った方がいい」
「だよね。あ、ネット使えんじゃん」
ただぼーっと待つのは性に合わないので、椅子に座ってソシャゲのアイテム集めにいそしむ。丞はというと、自販機の横にあるマガジンラックから筋トレ特集の雑誌を手にとってパラパラめくっている。ただそれだけなのに様になっているから恐ろしい。
付き合い始めてそれなりの時間が経つけど、いつだって新鮮な気持ちで丞ってかっこいいよなあ、と感心してしまう。体のバランスがいいんだよね。肩幅も大きすぎず、腰の厚みもほどよくて。胸筋だけは少し発達気味だけど。
五年、か
「三年続けばいい方じゃね?」は万里の言葉。「くれぐれも高遠さんに迷惑かけちゃ駄目っすよ」って言ったのは綴で、幸と莇には「体型維持できなかったらその口縫い付けるから」「不摂生して肌荒れしたただじゃおかねえぞ」と脅された。
三年も過ぎて、体型も維持できて、俺はこうして無事なわけだけど、もう終わりかなって思うことはあった。喧嘩も数え切れないほどしたしね。
性格とか趣味とか、芝居以外での共通点がほとんどないから、お互いをつなぎとめる何かを常に探している気がする。
冗談抜きで五年経った今でも、いつか丞に愛想をつかされるんじゃないかって不安になることがある。だって、未だに部屋の掃除は苦手だし、料理はうまくならないし、寝相悪いし、朝起きれないし、コーラとポテチ買いすぎて丞に怒られるし。
あれ、なんかめっちゃ憂鬱な気分になってきた。
レアアイテムも全然ドロップしないし、洗濯機のがこんがこんと回る音が耳障りに感じてくる。
「お前また一人で考え込んでるのか?」
横に座った丞からお茶の入ったペットボトルを渡される。スマホを膝に置いて両手で受け取ると温かさがじんわりと指先まで広がった。
「考え込んでるっていうか……五年も一緒に住んでるんだなってびっくりしてる」
「確かにな」
「あ、やっぱり? ぶっちゃけこんな続くと思ってなかった」
「そうなのか?」
あれ、意外な反応。「そうだな」とか「お前が言うな」とか、そんな返しを予想していた。
「丞は違うの?」
「続かないって思ってたら一緒に住みたいなんて言ってない」
そうだった。同棲は丞から言い出したことで、俺は最初嫌がってたんだよね。コミュ障だから、大人数の寮と違って二人きりの空間で生きていけるのか自信がなかったし、生活力の無さを晒すのも気が引けた。
押し切られるように始まった同棲生活だけど、なんだかんだけっこう楽しくて、何より好きな人と一緒にいられるって幸せだなって思う。丞も同じように思ってたら嬉しいけど、どうだろうな。
「これからも続けられるかな?」
憂いがあふれて嫌な疑問が思わず口をついてしまう。
洗濯機は五年で壊れてしまった。じゃあ、俺たちは?
いつか、俺たちも機械の部品が摩耗するみたいに、付き合うことに疲れて別れるかもしれない。顔も見たくないほど嫌いになってしまうかもしれない。いつまで一緒にいられるかなんて誰にも分からない。
「俺はそのつもりだ」
妙に確信を持った言い方だ。
洗濯機の中でぐるぐる回る衣類から丞の方へ顔を向けると、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「茅ヶ崎は違うのか? 去年俺が風邪をひいた時、どこにも行かないって言ってくれただろ」
「なんだ、起きてたんだ」
寝ぼけて俺の腕を掴んだのかと思ってた。
風邪で弱った丞はいつもより素直で、舞台で見せる凛々しい姿とは真逆だった。丞のファンが見たらそのギャップに悶えるだろう。俺もそうだったから。
誰も知らない丞を俺はたくさん知っている。子どもみたいに拗ねたり甘えたりするところも、それ以上に優しいところも。
俺だって、徹夜明けのボロボロな姿を見せるのは丞だけだ。
「あんなこと言ってくれるんだったら、また風邪ひくのも悪くないかもな」
にやりと笑う顔が俺好みの表情ど真ん中すぎて直視できない。
俺の彼氏、もしかしなくてもかっこよすぎなのでは?
美人は三日で飽きるとか言うけど、美形と五年も同棲した俺が断言します。あれ、嘘だから。飽きるわけないから。
「茅ヶ崎、顔が赤いぞ」
誰のせいだと思ってんだ。
「うるさいな。ほら、もうすぐ乾燥が終わるよ」
表示された残り時間は五分。スマホの時計を確認するともうすぐお昼だ。
「腹減ったな」
「家に洗濯物持って帰ったらラーメン食べに行こうよ」
「先週も行っただろう。お前は本当にあそこのラーメンが好きだな」
違うよ。丞と食べに行くラーメンが好きなんだよ。とは言わないでおく。
「寒い日にはやっぱりラーメンでしょ」
丞がため息をついて呆れた顔をする。その顔が付き合い始めた時と同じで、なんだか可笑しい。
五年も、じゃなくてまだ五年しか一緒に住んでいない。
丞のことをもっと知りたいし、俺のダメな部分ももっと知って欲しい。楽しいことや嫌なこと、嬉しいことや大変なこと、どんなことも二人で分かち合って、五年と言わずこの先何年だって一緒にいたい。
我ながら重いけど、丞も同じ気持ちだって分かってる。
だって、耳が少し赤いから。
お互いまだまだ素直になれないけど、どうか末永くよろしくお願いします。